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エッセイ

高等学校
2021/01/04
ドラマよりドラマチックな出来事
 

今年で教員になってから36年目となるが、担任としてクラスを受け持ったのは10年間だけ。そのうち入学から卒業までの3年間担任をしたのは3回きりである。

そんな数少ないクラスの卒業生の中には、中学生のお子さんのいる方もいて、学校説明会に今では保護者として参加され、ご挨拶をいただくことも最近ではそう珍しくはない。

初めて卒業生を出したのは20代後半。約30年前のことである。今から考えるとずいぶん気負っていたように思う。感情的に生徒とぶつかることも度々あり、それでも年が近いせいか生徒との気持ちが通じ合えた気がする。

エピソード1

卒業式を終え、教室で最後のホームルーム。さようならのあいさつとともに目の前に現れたのは、掃除用ロッカーの中に隠されていた花束。クラスの代表生徒が、「送辞」を読み上げてくれた。

「送辞 先生の授業はわかりやすくきめ細やかで、しかも緊張感を兼ね備えた素晴らしいものでした。また、お忙しいにもかかわらず、夏には補習をしていただき、先生の教育に対する情熱を見せつけられた思いがしました。これからも後輩のためにがんばって下さい。ささやかながら、三年〇組一同より感謝の気持ちを表します。 代表 ○○○○」

その送辞は今でも大切に残していて、私の大切な宝物である。

エピソード2

担任をしたクラスの生徒の中には、在校中に新しい命を授かった生徒もいた。その生徒は就職を希望していて、とある企業に内定していたが、ある日担任の私に「就職を辞めたい」と言ってきた。うすうす異変に気付いていた私はその生徒に「何カ月か?」と問うた。その生徒は号泣しこれまでの経緯を包み隠さず話してくれた。その生徒とは子育てのことなどで卒業後も何回か相談を受けたが、今では孫がいて立派なおばあちゃんになっている。

エピソード3

その生徒は180㎝を優に超える男子生徒で、見るからにいかつい風貌をしていた。彼は担任をしたクラスの学級委員長であり、寡黙であったがクラスの生徒のまとめ役として活躍してくれた。卒業から10数年経って、とあるテレビドラマのエンドロールに彼の名前を見つけた。よく似た名前の俳優さんがいるものだなあと思い、たまたま録画していたそのドラマを再生したところ、そこには彼の姿があった。SNSで検索し、ドラマでの活躍を称賛したところ、極めて謙虚で礼儀正しい返信が送られてきた。

普段の学校生活でドラマチックな場面に出くわすことはそう多くはない。しかし、ドラマよりもドラマチックなことが起きるのが学校である。そのドラマは卒業で終わるのではなく、そのあとも延々と続くのだ。