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エッセイ

特別支援学校
2020/10/22
Aさんからのプレゼント

病気で入院中の子が通う病弱特別支援学校で、私は小学6年生のAさんに会いました。病気は、白血病。初めて会った時、落ち着いた様子で静かに笑顔を見せてくれたことを覚えています。そして、その日から退院までの約1年間、私はAさんの担任として関わることになりました。

時間がたつにつれて、Aさんのことがわかってきました。Aさんは「私はすごく気が強い」と言いましたが、まさにその通り。納得できない時、嫌なものは嫌と、断固として主張します。私とも何度もぶつかり、担任と生徒という関係を越え半ばケンカになったこともありました(大人気の無さを今も反省しています)。でも、一方で賢くて鋭くて、素直で真っすぐで、とても優しい。Aさんは人間的な魅力に溢れた子でした。

昔に比べて白血病の治癒率は格段に上がりましたが、治療は大変で、副作用で髪の毛は抜け、他にも苦しいことがたくさんあります。でも、Aさんはその治療に耐えて懸命に病気に向き合い、学校でも前向きに学習に取り組みました。

しかし、ある日の朝、理由もなくAさんは教室に来ませんでした。迎えに行くと、ベッドに横になっていました。昨晩遅くまで勉強をやっていて、起きられなかったそうです。私は思わず言いました。「勉強はいいけれど、学校に来られない時間までやってはどうしようもないよ」。すると、Aさんの眼にみるみる涙が溢れました。そして、「私だって、好きで勉強していた訳じゃない!でも、夜になると、色々考えて怖くなって眠れなくて…。だから勉強していたの。なんで私が病気になったの…他の子は普通に学校に通えているのに、何で私だけ…。」Aさんの苦しみが、言葉となって溢れました。

Aさんがどんなに辛い思いでいたのか、私は全く分かっていませんでした。教員としても人間としても、私は失格だと思いました。私はAさんの表面しか見ていませんでした。

私は、Aさんに対して、気持ちを分かっていなかったことを謝りました。ここまで真剣に謝ったのは初めてでした。そして、しばらくのやりとりの後、Aさんは再び前を向いてくれました。私は「絶対にこの子を辛い想い出だけで退院させない!」と、強く誓いました。Aさんも含めたみんなが楽しめるように、色々と工夫をしてみました。調理活動もよく行い、たこ焼き、もんじゃ焼き、スイートポテト…色々作りました。昼休みは卓球の勝負。もちろん、毎日の学習、体育祭や文化祭もがんばりました。下校後は、病室で毎日遊びました。そして、一緒にたくさん笑いました。一日一日が、宝物でした。

そして、いよいよ退院が近づきました。Aさんは中学校に上がったので、初めて地元の中学校に通います。不安は大きかったけれど、ここでもがんばりました。初めて地元の学校の教室に入った時、休み時間にAさんを囲む仲間の輪ができました。

私の手元には、退院する時にAさんがプレゼントしてくれた手作りのアルバムがあります。心のこもったメッセージと、Aさんが笑顔で映る写真がたくさんあります。ついでに、一緒に写る私も笑顔ばかりです。

初めて会った時から5年、Aさんは高校生になりました。あと3年たてば治癒とみなされます。あの1年をAさんはどう思っているのか、改まって聞けずにいますが、今でもたまに顔を見せに学校に来てくれます。それが「答え」だとしたら、うれしいのですが…。

Aさん。あなたの姿が、私に勇気をくれます。あなたが自分の夢に向かって生きることが、私の力にもなります。あなたに会えて本当によかった。ありがとう、Aさん。