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エッセイ

大学(短大?大学院含)
2020/07/13
思いがけない年賀状

今年のお正月、初めての人から年賀状がきた。今から22年前、私が着任した年のフランス文学の講義に出席していた、他学科の学生さんである。

当時、その学科からは「フランス語に興味がある」ということで二人の学生さんが出席しており、二人ともとても熱心だった。特に、連絡をくれた人は理系でありつつ文学にも関心があるとのことで、いろんな小説を読んでいた。またフランス語の力も読解力もあり、テクストに関する着眼点も鋭く、意見も積極的に述べる。おかげで10人足らずのクラスには活気があふれ、とても刺激的な時間を過ごすことができた。卒業後は中学校の理科の先生になり、一度だけフランス料理を食べに行ったが、関東に着任したため、その後会うことはなかった。

そんな彼女からの突然の年賀状である。すぐにメールをし、近況をやり取りした。モスクワの日本語学校に数年間勤めたのち、今は再び関東に戻って、以前と同じく中学校で理科を教えているそうだ。相変わらず文学への熱は冷めず、今はロシア文学にも熱中しているとのことだった。嬉しくなって、3月に上京するから会いましょう、と約束をし、「ロシア文学」に熱中している人に会うからには、それまでに『罪と罰』を読み終わらなくては、と張り切って手に取ったのだが、残念ながらコロナ禍で再会は延期になってしまった。けれども一度やり取りできたからにはいつでも再会は可能、と次の機会を楽しみにしている。

少人数できめ細かい指導、ということは経済効率からすればよくないのかもしれない。また、狭い専門を極めるということも最近はあまりよしとされない。けれど、わずか一年間であっても、フランス語のテクストをじっくり読む、という濃密な時間を過ごせたことが深い人間関係を作れたのだと思うし、それが遠い時を経てよみがえった。(当時のプリントやノートを今でも取っていてくれる、と聞いてちょっとしみじみした。)学科の専門に関係なく、「深い興味」を持つことで人はつながれる、と嬉しくなった出来事だった。