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エッセイ

大学(短大?大学院含)
2020/06/01
若者に自らの人生を自らデザインすることの喜びを!

私は九州大学の教員をしていた時に10年間、九州大と早稲田大の学生約25人に対して毎年、1週間の米国シリコンバレー研修プログラムを実施していました(九州大学/ロバート?ファン/アントレプレナーシッププログラム:通称QREP)。

 

滞在中は毎日朝8時から夜夕食時まで、1コマ90分の授業を1週間合計約20コマ、企業訪問や現地大学での授業参加も7-8件実施しました。内容は、現地で活動する様々な分野のチャレンジャーに、自らの人生遍歴等の話をして貰い、学生とディスカッションする形が中心でした。日本人を中心に、現地で頑張るベンチャー起業家や米国企業で働く人達、研究者、NPO活動家、留学生などが、ボランティアで講師を引き受けてくれました。

驚いたのは、講師の話を聞いた学生の大半が最初の日から興奮状態になり、普段は大人しい学生達からの質問は途切れることがなく,授業が終わっても講師を離さない状態が続いたことでした。そして夜にホテルの私の部屋に来て、「先生、好きなことを仕事にして良いんですね」と泣き出した学生もいました。

彼は、やりたいことや自分の夢があったのですが、親や周囲の希望に気を遣って専攻を選び、大企業に就職することにしていました。でもシリコンバレーで活動する人達、特に多くの日本人が、自分の夢実現の為に挑戦を続けていることを知り、自分自身のやりたいことを選択することが間違いではないと確信したので、嬉しくて涙を流したのです。

彼は今、当初の専攻を変更して別の大学に入り直し、夢だった“国境のない医師団”に参加すべく研修医をしています。また研究者になりたいものの、女性であることのハンディを意識して博士の学位取得を諦めかけていた女学生は、苦労を重ねたうえで企業のCEOになったインドからの移民の女性の話を聞き、「チャレンジする前に諦めていた自分が恥ずかしい」と言って、帰国後博士の学位取得に挑戦し,見事学位を取得しました。今は国立の研究機関で働いています。

 

このほかQREPに参加した10年間約260人のOB/OG達は、それぞれが自分の進みたい道を自分で決め、失敗を恐れず歩み続けています。

私自身も、自分の人生を自分で決めることこそが悔いのない人生だと感じ、50歳の時に勤務先の大企業を中途退職、米国の大学で無給の客員研究員になりました。それは日本の社会常識に反する行動でしたが、多少苦労はしたものの、その後ワクワクする人生を送ることが出来ています。その経験をもとに学生達に対して、彼等が自らの人生を自分で決め、行動と挑戦を続けて行く勇気を提供できたことは、無上の喜びでした。

また卒業後何年か経った後に再会したQREP経験者の若者から、「社会人になって苦しいことつらいことがあった時には、QREPで感動しメモしたノートを読み返し、頑張る勇気を得ている」と言われたことがあります。また、「QREPの経験がなければ今の自分はない。起業にチャレンジする事もなかった」と言った、現在急成長中のスタートアップ創業者の若者もいます。これらの言葉もまた、先の2つの例と同じく教師をしていて本当に良かったと思うことです。まさに教師冥利に尽きる話です。

最後に、QREPで講師をしてくれた、スタンフォード大学の日本人教授の方が仰った言葉を紹介します。曰く「学生は大学に人生を買いに来ている。だから我々教師はそれに応える責任がある」と。私自身は大学を去りましたが、若い人の成長に関わる仕事を継続しています。これからもこの言葉を噛みしめ、また教師冥利に尽きる経験をしたいものです。