卒業生CATCH! 鈴川 了 さん
今に活きる、大学で学んだ力
大学院 芸術文化専攻 2001年3月卒
大阪府立夕陽丘高等学校指導教諭
鈴川 了さん
「いつもわたしが歌っている校歌とは別の曲みたい」と歓声が上がる、大喝采の出張コンサートでした。昨年12月、大阪市立五条小学校の体育館のステージに、総勢120人のオーケストラ合唱団が集結しました。タキシードとカクテルドレス、ではなく、詰襟とセーラー服に身を包んだ彼らは、大阪府立夕陽丘高校音楽科の生徒たち。約720人の児童の前で、『カルメン』や『ハンガリー舞曲』といったクラシックの名曲から『ドレミの歌』など親しみのあるものまで多彩な曲目を披露し、とりわけ、クラシック風にアレンジした五条小学校校歌は子どもたちの心をつかみました。この編曲を手がけ、指揮を担当したのが、今回の主役、鈴川了指導教諭です。
同校は府立高の中で唯一の音楽科があり、音楽科教育の拠点校の機能も果たしています。音楽教員も4人と充実しており、鈴川指導教諭はその中で作曲を担当しています。面白いと思ったものはどんどん授業に取り入れるのが鈴川指導教諭のスタイル。現在はタブレット端末を使って、童謡詩から新たなメロディをつくる創作授業を展開しています。「練習でも、自分で作曲した音をグラフ化できるソフトを使ってわかりやすくすることで、楽譜が正確に読み書きできなくても、作曲に興味を持ち、チャレンジできます」と語ります。
講師時代を含め、今年で教員生活16年目を迎えますが、教壇に立ち続けてわかったことは、“本気”の授業をすれば生徒も応えてくれるということでした。「授業に興味が向かない生徒に対して、どのように接すればよいか苦労することもありましたが、演奏テクニックはもちろん、音楽の理論や歴史など、これまでに身につけた知識や技術を、さまざまなツールを駆使してわかりやすく伝えることで、授業に集中してくれるようになりました」と確かな手ごたえをつかんでいます。その授業づくりの土台には、大学で学んだ専門知識がものを言っているようです。
「作曲というと、天からひらめきが降ってくるようにイメージされる方もいるかもしれませんが、メロディを断片から膨らませるにはちゃんと決まり事があるんです。納得したものをつくるには、下地となる膨大な知識が必要で、学生時代はその地道な勉強に明け暮れたものです」と当時を振り返ります。「ゼミ発表でも、楽器演奏や合唱であれば、多少不出来でもやり過ごせますが、作曲は曲そのものが生まれなければどうしようもない。胃の痛い時を過ごしたこともありましたが、あのがむしゃらに学んだときがあればこその今なので、大学には感謝しています」と照れ笑いを浮かべました。
昨年からは学校のミドルリーダー的役割である指導教諭に任命され、後進の育成にも力を注いでいます。現在は、同校の恩知理加校長からの依頼で、近隣校の新任教員を指導しています。「教員は23歳でも、60歳でも、求められるレベルに変わりはありません。でも音楽教員は、基本的に1校にひとりだけ。全教科に共通した基本的なことであれば、同僚の先生に教えてもらえますが、専門的な部分に関しては学校内では限界があります。わたしも学外研修で貴重なアドバイスをたくさんもらったので、こうした形で還元できれば」と語ります。偶然にも、恩知校長も、担当の新任教員も大教大出身。大学への恩返しの気持ちがあるようです。
教員として着実な歩みを続けていますが、いまも変わらぬ原点は、生徒たちがいかに音楽に親しみ、自己表現力を育むか。「今後の教員人生をかけて突き詰めていきたい」と意気込みます。そんな鈴川員指導教諭の息抜きは、大自然を楽しむこと。普段あふれている「音楽」が流れない、自然の音空間に身を置くことで、また新たな気持ちで音楽に取り組むことができるようです。
(2016年5月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。