ラボ訪問 仲矢 史雄 特任准教授
学びの可能性を広げるために
科学教育センター
仲矢 史雄 特任准教授
「ICT(情報通信技術)を活用できる先生が今日求められていて,その仕組み作りの開発を目指しています。ただし我々の究極の着地点は,チョーク一本だけでも授業のできる教師を養成する仕組みをつくること。ICTは教師の能力を引き出すものであり,それがないと授業ができない,ではいけないと考えています」。
科学教育センターの仲矢史雄特任准教授は,科学教育の実践とともに,教育分野でのICT活用を実現する教材や機器を研究開発し,教育現場と企業をつなぐ懸け橋として,大学の新たな価値創造に取り組んでいます。コニカミノルタとの連携によるノートやレポート等の紙書類を二次元バーコードでデジタル管理する『スマートポスト』など,産学連携による製品を次々と生み出しています。
中でも,国立大学改革強化推進事業(HATOプロジェクト *1/京阪奈三教育大学連携プロジェクト *2)の一環として開発し、実用化に向けた試行が進んでいるのが教育実習専用SNS(web上での人と人との交流を促すサービス)『スマートフォリオ』です。「これまでの教育実習では,記録が書類のため管理が煩雑で,しかも実習生に評価書類を返却すると実習記録が残らず,総合的な評価が困難でした」。このSNSではメッセージの送受信のほか,PCで作成した電子化ファイルや,前述のスマートポストで電子化した書類,画像,動画を共有でき,コミュニティ内で公開範囲を限定することも可能です。PCのほか,タブレット端末やスマートフォンからも利用できます。
SNSの代表格『Facebook』との違いは,動画を撮影?再生?編集できるソフト『スマートレコーダー』の存在。使い方は,実習生がスマートレコーダーで授業を撮影し,動画をスマートフォリオ上に公開します。再生した映像から自身の授業内容を復習できるほか,スマートレコーダーには再生時間軸上でコメント付加機能があるため,実習先や大学の指導教員に要所ごとのアドバイスコメントをもらうことができます。画面上にクイズやその回答時間を設定することも可能で,デジタル教材開発のトレーニングとしても使えます。
教育現場での普及を主体にICTツールの研究開発を展開していますが,この技術を応用して,一般に向けた実用化もめざしています。「教員養成系大学は学びの専門家でもあると同時に,人材能力育成の専門家でもあります。教師は40人の子どもを相手に,読む?書く?聞く?話すの技能を習得させ,さらに一人ひとりの特性を見抜き,向上させる能力が求められますが,そのノウハウは今,企業からも求められているのです」。例えば,教師の観察能力訓練は適材適所の人事配置に,教科書の開発技術はマニュアルの作成に発展できるといいます。「教員の産業化というと,これまでは受験関連とみなされがちでした。しかし,人材育成という観点から見た場合,総合大学にはない新しいニーズを開拓できる可能性を秘めています」。
また開発している教育用アプリは便利な機能を搭載していますが,あえて不便さもつくっています。「カーナビゲーションに頼ると地理を覚えなくなるでしょう。機械がすべてまかなうと人間がいなくとも学習が成り立つと思ってしまう恐れがあります。しかし,人間が考え,生み出す力は無限大で,それが軸でなければ本当の意味での支援ツールとなりません」と真意を語ります。
趣味はマテ貝ハンティング。砂浜に穴巣をつくるマテ貝は,塩をかけると穴から体を出す習性があります。「つかまえるにもコツがいるんです。あさりに似た味で,つかまえて楽しい,食べておいしい」。なぜ塩に反応し飛び出してくるのか,メカニズムや理由が完全に解明されていないのも興味をそそる要因。「水酸化ナトリウムや塩化アンモニウムでは反応しないんです。天敵の鳥が飛び交う中,不用意に顔を出すのは,即,死を意味します。なぜそんな行動をとるのか解せません。解明したら論文にしたい」と科学少年のように目を輝かせていました。
*1:HATOプロジェクト???北海道教育大学、東京学芸大学、愛知教育大学、大阪教育大学による日本の教員養成教育の諸課題に取り組む連携プロジェクト
(2014年9月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。