ラボ訪問 真野 祐輔 准教授
『数学を教える』を科学する
教員養成課程 数学教育講座
真野 祐輔 准教授
教員をめざし、大学へ進学した真野祐輔准教授。教員養成課程は免許を取って卒業するところで、研究して専門性を深めるところではないと思っていました。しかし、「勉強していくうちに、『数学教育学』という研究領域があり、それを専門にする研究者が国内外で活発に研究している。面白いと感じました」。恩師との出会いもあり、大学院へ行こうと決意します。博士号へのプレッシャーや就職への不安を抱えながらも研究に打ち込み、無事に博士課程を修了。本学に着任します。
大教大の特色は、教員養成大学でありながら、解析学、遺伝子学、文化人類学など各学問の専門性を大事にしていることだと感じています。一方で、「教科教育も実践だけでなく、一つの学問、研究領域として発展させようとしている」と強調します。例えば数学教育学と聞くと、良い指導法や教材を考えるといった「開発」や、それを現場で活かす「実践」を思い浮かべます。しかし数学教育学の研究とは、「数学を教える」という活動そのものを理解することだと言います。「良い指導はなぜ良いのか。そもそも『良い』の基準は何か。新しい指導法を作ったり試したりするだけでなく、そこで行われていることを理論化し、解明するのが研究です」
現在は、数学を学ぶ上で日本語がどんな影響を及ぼしているのかに注目し、日本の数学教育の特徴を明らかにすることに関心を寄せます。特に、「論証指導」に着目。三角形の合同の証明などが有名ですが、半分以上の生徒たちが論証の意義を理解できていないという調査もあり、その一因が日本語の構造にあるのではないかと考えています。「例えば、証明問題を解く際によくでてくる『すべての』『任意の』という言葉。英語でいうとallやanyですが、日本語の日常会話ではあまり使いません。現在学校現場で教えられている西洋由来の数学は、ヨーロッパ言語をベースに命題や数式の作り方などが決められています。日本語との文法の違いからくる違和感が、苦手意識に繋がっているのではないか」。こういったマイナス面だけでなく、日本語を母語とすることがプラスになることについても探っています。
自身の研究はできるだけ国際会議や国際ジャーナルに出そうと取り組んでいます。「日本の教材開発や授業づくりなどは、海外からも評価は高いですが、そのまま英語で書くだけでは伝わらない。日本では、開発や実践に比べて理論化が進んでいませんし、国によってカリキュラムや指導法などのあり方も違います。日本の数学教育を国際化し、海外へ発信していくのも研究者の仕事」。海外の研究者との共同研究なども重要だと考えています。
学生には、お手本にしている先生を縮小再生産するのではなく、超えて欲しいと望みます。「過去に出会った学校や塾の先生を目標に教師をめざす学生が多い。でも、意欲次第でいくらでも深い学びができるのだから、自分の教育観を広げ、それまでの価値観が変わるぐらいのブレイクスルーを経験して欲しい」。しかし今の学生は、「難しい」「わからない」ということを嫌がる傾向にあると感じています。「大学の勉強は、難しいのが当たり前。わからないことに触れるから、新しいことが学べる。学生には,わからないことがわかるようになる経験を沢山してほしい」。だから数学を専攻する学生には、あえて難しい課題を出して困ってもらいます。「他専攻の人には、算数や数学を好きになってもらうことが第一です。でも数学が好きで大学に来た人たちは、知識を増やすべく、どんどん困ればいい」と笑います。自身と同じ数学教育専攻の学生の話になると、ストイックな研究者の顔の中に、学生を見守る厳しくも優しい教育者としての顔が垣間見えました。
(2017年10月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。