本文へ

ラボ訪問 生田 泰志 教授

プールサイドで撮影に応じる生田先生

スポーツ科学の力で現場を支える

表現活動教育系(スポーツ科学部門)
生田 泰志 教授

 「大学1回生のときに観に行った日本選手権水泳競技大会の会場で、“スポーツ科学との出会い”がありました」と生田泰志教授は話し始めます。「急遽、大会会場で先輩から頼まれて、観客席からスタートに合わせてボタンを押す手伝いをしました。そのボタンは、記録用のカメラにスタートのタイミングを知らせるためのものであることを後から知り、それが自分の『レース分析』の第一歩でした」。レース分析は、泳ぎの速さだけでなくピッチや泳ぎの大きさ、さらにはスタートやターン、あるいはゴールタッチを含むレース終盤に要した時間などのレース情報を計測し、それらをもとに選手のパフォーマンスを客観的に分析すること。選手やコーチは、この分析をもとに課題を見出し、今後の練習を組み立てていきます。生田教授はレース分析という“スポーツ科学との出会い”の後、修士課程修了までの学生生活で、選手として幾度となくレースに出場しながらも、レース後にはレース分析の手伝いをしていたそうです。

 その後、レース分析は日本水泳連盟科学委員会の一つのプロジェクトとなり現在まで続いています。修士課程修了後、本学に採用されてからは、国内で開催される水泳競技大会において、科学委員会が実施するプロジェクトのチーフとしてレース分析に注力します。

講義を行う生田教授

 1999年にはオーストラリアで開催されたパンパシフィック水泳選手権で、日本代表チームに帯同するスタッフのうち、初の科学分析スタッフとして選ばれます。以後数々の国内外の大会において、世界で戦うトップアスリートをスポーツ科学の力で支えていきます。

 2000年、オーストラリアスポーツ研究所において、1年間の在外研究をしていた生田教授。研究所が中心となり立ち上げた、様々な国の研究者で構成されるレース分析プロジェクトの一員として、シドニーパラリンピックのレース分析に携わります。翌年、そこでの経験を活かした、日本身体障害者水泳連盟の合宿での水泳指導をきっかけに、ジャパンパラリンピック大会のレース分析も行うようになります。当時は、パラ水泳日本代表選手の主な活動が関西圏中心であったことから、大学のゼミ生を連れて生田研究室として、レース分析に携わることも増えていきました。

 長年にわたるレース分析の経験から、2021年に開催された東京パラリンピックでは、スポーツ科学の視点を踏まえた解説を期待されて、NHKの水泳競技解説者として抜擢されます。「手元でピッチ(手をかく速さ)と通過タイムを測るなど、放送席から収集できるレース情報を交えながら解説を行うことを意識しました。『速い』『遅い』という主観的な解説ではなく、予選よりも何秒早い、といった数値情報を使った客観的な解説を心がけました」。この姿勢には、日本代表選手たちは科学情報も使いながら世界と戦っていることを発信したいという、スポーツアナリストならではの熱い思いが込められていました。

講義を行う生田教授

 「スポーツ科学やその情報は一つのツールで、必要な人にとっては大変重要なもの。レース分析が即座にフィードバックができず、現場で十分に活用できなかった時代から、今や活用しないと勝てない時代になっています。つまり、スポーツ科学を活用することが“当たり前”になってきたのです。その変遷をそばで見てこれて本当によかったと思います」。生田教授は懐かしげに語ります。

 大学教員としては、授業を受ける水泳初心者から水泳部の上級者まで、スポーツアナリストとしては、健常者から障がい者まで、幅広い層の“泳ぎ”、さらには世界大会クラスのトップアスリートの“泳ぎ”を見てきたことが自らの強みだと言う生田教授。教育大学の教員として、これからは学校体育における初心者指導に役立つ仕組みづくりをしていきたいと言います。「水泳に限らず、何事も楽しさの一つに『上達する』ということがあると思います。全ての教員が、泳ぎが得意であったり、水泳の専門家であったりすれば良いのですが、実際はそうではありません。ですから、正しい泳ぎ方や、その教え方を伝えるための仕組みを開発することが必要であると思っています。これからは、『上達する』という水泳の楽しさを追求し、水泳界や教育界に貢献できる“Something New”をつくっていきたいです」

「TenYou ―天遊―」vol.55インタビュー&メイキングムービー

(2021年11月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

最新記事一覧はこちら

バックナンバーはこちら