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ラボ訪問 榎木 泰介 准教授

榎木泰介准教授の写真1

研究者として、教育者として

教養学科 健康生活科学講座
榎木 泰介 准教授

 「アスリートの身体はスポーツカーの高加速とハイブリッドカーの低燃費を兼ね備え、非常に効率的にできています。F1カーの技術が一般自動車に応用できるように、アスリートのエネルギー効率が、一般の方や、入院患者のようなうまくエネルギー産生できない人にも応用できないかを研究しています」と榎木泰介准教授は研究テーマを説明します。

 運動は生涯を通して必要なもので、その効能は、子供の発育発達、心身の健康の保持増進、リハビリなど限りがありません。榎木准教授は現在、筋肉にエネルギー源を運ぶタンパク質(膜輸送タンパク質)に注目し、運動による骨格筋の適応変化について研究を進めています。また、以前の所属先である国立スポーツ科学センター(JISS)や岐阜県高山市と提携し、アスリートの高地トレーニングに帯同して、血液や尿などの成分を分析し、身体に起こる変化を調べています。「彼らの身体特性を解析することで、その効率性が何に由来しているのか解明したい」と意気込みます。

榎木泰介准教授の写真2

 学生時代、身体能力が成績に直結するアメリカンフットボールに熱中していたことから、どうして同じ練習をしても能力差が出るのか疑問に思い、運動生理学に興味を持ちました。本学の健康科学専攻を卒業し、東京大学大学院を経て、当時創設されたばかりのJISSの研究員と、華麗な経歴を歩みます。

 JISSは、日本オリンピック委員会や競技団体、国内外の研究機関と連携して、日本人選手の競技力向上を目的に、スポーツ医科学における最先端の研究を行う組織です。榎木准教授は、ジャージでフィールドを駆けまわり、実験室では白衣姿で生化学的な分析を行いました。各種競技団体と連携して、コンディション調整や急激な減量による身体への影響などを調査し、競技成績の向上に取り組みました。「一流アスリートやコーチとの議論や研究は、とてもやりがいのある仕事でした。このままずっとここで研究者として人生を送るんだろうなと思っていました」

 JISSで働いて3年目、美術大学での非常勤講師の兼業が人生を変えるきっかけの1つになりました。前期は楽しく体を動かす実技カリキュラムで学生たちに大人気。しかし一転、後期の座学講義になると、一様に「つまんない」という表情で、受講カードが真っ黒に塗りつぶされることも。「アスリートや運動に興味がある学生なら目を輝かせる内容も、美大生にはまったく響かない。天狗になっていた鼻がへし折られました」と笑います。教官室で毎回反省会をし、どうすれば興味を持ってもらえるか考え、改善を重ねました。

榎木泰介准教授の写真3

 そんなとき、本学の講師募集を耳にします。「美大での経験がなければ、きっと面接でも”俺は偉くて、専門家で”というオーラを全開にして、今ここにはいなかったでしょうね」。当時31歳。茶色い髪を黒く染めなおし、教育者榎木泰介の人生がスタートしました。

 本学では授業?研究とともに、学生の課外活動にも熱心に関わっています。顧問を務めるアメフト部では、部員との深夜に及ぶミーティングにも付き合い、練習法やトレーニング理論を伝授します。就任3年で、3部リーグ降格争いから1部リーグ昇格にまで導きました。それでも学生スポーツで勝つには、人間としての成長が鍵と説きます。「トップアスリートは、誰に対しても礼儀正しく、人格が磨かれています。部員には、先生や職員だけでなく、キャンパスであった人には誰にでも挨拶しなさいと指導しています。一例ですが、それもスポーツで勝つためです」

 今後は心身と運動、健康とのリンクについても研究領域を広げていきたいと語ります。「野生動物は生まれたらすぐに独りで歩かないと獲物として食べられてしまいますし、食べるためにも獲物を追いかけたり、草木を求めて移動する必要があります。動くということは生きる上でとても重要で、そこから考え学びます。しかし現代は学力偏重で、身体という器づくりがおろそかになっていないでしょうか。運動の有用性を子どもの身体と心の発達につなげていきたい。研究を教育に還す、それも教育者としての使命だと思っています」

(2015年11月取材)
※掲載内容はすべて取材当時のものです。

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